弁護士・弁理士 許峰

    国家知識産権局は2022年10月31日に『特許審査指南改正草案(再意見募集稿)』(以下、「再意見募集稿」と略称)及びその説明を公布し、社会各界の意見を募集した。『工業意匠の国際登録に関するハーグ協定』(『ハーグ協定』)が2022年5月5日に中国で正式に発効した。『ハーグ協定』と中国国内出願は業務ルールに一定の違いがある。このため、協定の発効・実施に伴う新たな変化に積極的に対応するため、国家知識産権局は、『ハーグ協定』及びその共同実施細則、行政規程の関連規定を真剣に検討した上、「再意見募集稿」に「意匠の国際出願」に関する第六部分を新たに追加し、これには意匠の国際登録出願の事務処理に加えて、意匠の国際登録出願の審査も含まれている。

    簡単に言えば、新たに追加された第六部分は、国際出願の提出から権利取得後の管理までの全過程を含んでおり、ハーグ協定の国内での適用及び関連手続の連携にシステム的な参考を提供している。以下、、新たに追加された第六部分の具体的な規定について詳しく説明する。

第一章 意匠の国際登録出願の事務処理

    「再意見募集稿」では、意匠の国際登録出願を提出するルートを2種類規定している。

1.意匠の国際登録出願は、国際事務局に直接提出することができる。

2.出願人が中国に常居所又は営業所を有する場合、特許庁を通じて国際事務局に意匠の国際登録出願を提出することができる。特許庁を通じて意匠の国際登録出願を提出する場合、国際手続における後続のその他の書類は、国際事務局に直接提出しなければならない。

注:外国出願人の場合、その国際手続における登録プロセスは、ハーグ協定が中国で発効する前と比べて明らかな変化はないが、中国を指定するハーグ出願の国内手続は全く新しいものであり、具体的には次章を参照する。中国の出願人の場合、ハーグシステムは、その外国への意匠登録に全く新しいルートを提供しており、詳細な規定は以下を参照する。

    ルート2について、意匠の国際登録出願が次の条件に合致する場合、特許庁は国際事務局に転送する。

(1)少なくとも出願人の1人が中国に常居所又は営業所を有している。

(2)少なくとも出願人の1人が出願人の締約国として中国を選択している。

(3)英語を使用して意匠の国際出願書類を作成している。

(4)ハーグ協定で規定された公式様式を使用している。

(5)出願には、意匠の図面又は写真が含まれている。

(6)中国大陸の中国語連絡先情報を含んでいる。

(7)出願書類は法律、公序良俗に違反したり、又は公共利益を妨害する情報を含んではならない。

    意匠の国際登録出願が中国を指定する場合、出願人は意匠の国際出願の中国語訳文を提出することができる。

    意匠の国際登録出願が転送条件を満たしている場合、転送手続は次の通りとする。

(1)出願人に意匠の国際登録出願の転送通知書を発行し、転送番号、転送期間及び書類一覧を通知する。

(2)国際事務局に意匠の国際登録出願の書類及び受領日などのデータを転送する。

    特許庁を通じて国際事務局に提出された意匠の国際登録出願は、特許庁が受領した日から1ヶ月以内に国際事務局が受領した場合、特許庁の受領日を国際事務局の受領日とみなし、そうでない場合、国際事務局が実際に受領した日を受領日とする。

    ハーグ協定に基づいて既に国際登録日が確定され、かつ中国を指定している意匠の国際出願は、特許庁に提出された意匠特許出願と見なされ、当該国際登録日は特許法第28条に記載の出願日と見なされる。

    国際事務局が意匠の国際出願を公布した後、特許庁は、国際事務局から転送された意匠の国際出願に国内出願番号を付与し、後続の審査を行う。

    国際事務局が意匠の国際出願を公布した後、意匠の国際出願の当事者は特許庁に関連手続を行う際に、中国語を用いて規定に合致する関連書類を提出し、国内出願番号を明記し、特許法第18条の規定に基づいて委任手続を行わなければならない。

    意匠の国際出願について保護を与えると決定した後、特許庁は公告を行い、公告の内容には、特許権の書誌的事項及び1枚の図面又は写真が含まれる。書誌的事項には主に、分類番号、特許番号、国際登録番号、授権公告番号(出版番号)、出願日、授権公告日、優先権事項、特許権者事項、当該意匠を使用する製品の名称などが含まれる。公告の書誌的事項の内容は国際登録公布文書に既に記載されている場合、それと一致するものとする。当該意匠の特許権は公告日から中国で発効する。特許庁の公告後、意匠の国際出願の出願人は、中国で保護されていることの証明として、特許庁に意匠の国際出願の特許登記簿副本の発行を請求することができる。意匠特許の単行本の内容には、フロントページ、図面又は写真及び簡単な説明が含まれる。その中で、図面又は写真、簡単な説明は、国際事務局が公布した保護認容声明により確定された文書の形式で提供する。

    意匠の国際出願の出願人(又は特許権者)の権利変更、名称及び/又は住所の変更、国際事務局における代理事項の変更があった場合、当事者は国際事務局に関連手続を行わなければならない。

    意匠の国際出願の出願人(又は特許権者)の権利が変更された場合、当事者は国際事務局に関連手続を行うほか、特許法実施細則の規定に従って特許庁に証明書類を提出しなければならず、証明書類は本指南の第1部第1章第6.7.2.2節及び第6.7.2.6節の規定に適用し、証明書類が外国語である場合、同時に書誌の中国語訳文を添付しなければならない。証明書類が提出されていない場合、又は証明書類の提出が不合格である場合、特許庁は当該権利の変更が中国において効力を有していない旨を国際事務局に通知しなければならない。

    意匠特許権の期間は、出願日から起算して15年とする。意匠の国際出願が特許庁の授権公告後、特許権者がハーグ協定の規定に従って存続期間の更新手続を行わない場合、特許権は中国での出願日から5年又は10年満了した日から終了する。

 

第二章 意匠の国際出願の審査

    意匠の国際出願の審査とは、出願人が工業意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(以下、ハーグ協定)に基づいて提出し、かつ中国を指定する意匠の国際登録出願に対して、特許庁が特許法及びその実施細則の規定に基づいて審査を行うことである。特許法実施細則第143条の規定によると、意匠の国際出願が特許庁の審査を経た後に拒絶理由が見つからない場合、特許庁は保護を容認すると決定し、その旨を国際事務局に通知する。

    本章に係る意匠の国際出願に対する特許庁の審査範囲は、次の通りである。

(1)明らかな実質的欠陥に関する審査であって、意匠の国際出願に意匠特許権を付与しない状況が存在するか否か(特許法第5条第1項、特許法第25条第1項第(6)号、特許法第2条第4項)、単一性審査(特許法第31条第2項)、同様の発明創造に関する審査(特許法第9条)、明らかに新規性及び進歩性がないことに関する審査(特許法第23条第1項、第2項)、及び補正が範囲を超えている否かに関する審査(特許法第33条)、特許法実施細則第142条の規定に関する審査が含まれるもの。

(2)その他の書類及び関連手続の審査であって、意匠の国際出願に関連するその他の書類及び関連手続が特許法第18条、第24条及び特許法実施細則第3条第1項、第18条、第33条第4項、第34条第3項、第139条、第140条、第141条の規定に合致するか否かに関する審査が含まれるもの。

注:出願人は、今回の改正では初めて進歩性基準が意匠の国際出願の審査範囲内に導入されたことに特に注意しなければならない。中国の『特許法』によれば、意匠は従来設計又は従来設計の特徴の組み合わせと比べて、明らかな相違を有しなければならないことが要求されている。すなわち、複数の従来設計を用いて意匠出願の進歩性を評価することが認められており、これは特に欧州地域の関連規定と異なる。

    意匠の国際出願を審査した結果、拒絶理由が見つからない場合、審査官は国際事務局に保護認容声明を出さなければならない。保護が容認される意匠の国際出願には、国際事務局に拒絶通知を出すことなく権利付与の条件を満たす国際出願、及び拒絶通知に回答した後に権利付与の条件を満たす国際出願が含まれる。

    意匠の国際出願に明らかな実質的欠陥が存在する場合、審査官は国際事務局に拒絶通知を出さなければならない。拒絶通知には、拒絶の根拠となる全ての理由及び引用された法律条項が含まれなければならない。拒絶理由が特許法第23条第1項、第2項又は特許法第9条の規定に関わる場合、当該意匠の国際出願に関連する従来設計又は国内の同様の意匠出願又は意匠の関連情報も含まなければならない。

注:ここでの拒絶通知は最終的な拒絶査定ではなく、「第1回審査意見通知書」と理解することができ、出願人は通知書で指定された期限内に当該拒絶通知に対して回答しなければならない。回答意見は中国語形式で国家知識産権局に提出しなければならない。外国出願人の場合、回答を行う際に、特許法第18条の規定に合致する特許代理機構に委任し、関連委任手続を行う必要がある。

    出願人は拒絶通知を受領した後、指定された期限内に特許法第18条の規定に基づいて委任手続を行い、回答しなければならない。意匠の国際出願については、出願人が拒絶通知に回答する期間は4ヶ月とする。特許法実施細則第3条第1項の規定によると、出願人は回答する際に中国語を用いて意見陳述書を提出し、又は出願書類を補正しなければならない。補正書類が簡単な説明、製品名称及び図面の説明などの文書に関わる場合、関連書類の英語の訳文も提出しなければならない。

注:今回の改正では、拒絶通知の受領を延期することは規定されていない。また、拒絶通知に回答する期間の起算日も明確にされておらず、登録者が国際事務局から拒絶通知を受け取った日から起算すれば出願人にとって有利であり、特許庁が拒絶通知を出した日から起算すれば出願人にとって不利となり、両者の時間差は概ね15日である。

    回答書類に新たな欠陥が現れた場合、当該欠陥が補正によって解消できる場合、審査官は全面的な審査を行い、出願人に補正通知書を発行しなければならず、当該欠陥が補正によって解消できない明らかな実質的欠陥である場合、審査官は出願人に審査意見通知書を発行しなければならない。

注:出願人が国家知識産権局の拒絶通知について回答した後、後続の関連手続は全て対応する国内段階に移行し、国際事務局は審査手続に関与しなくなる。

    出願人が拒絶通知又は審査意見通知書に対して提出した回答書類が通知書で指摘された明らかな実質的欠陥を解消できない場合、審査官は拒絶査定を下すことができる。

    意匠の国際出願の出願人が拒絶通知に回答する場合、又はその他の特許事務を行う場合、特許法第18条第1項、特許法実施細則第18条の関連規定に合致しなければならない。

    出願人が意匠の国際出願を提出する際に既に中国の特許法第18条の規定に合致する特許代理機構に委任している場合、特許庁に特許事務を行う際に、本指南の第1部第1章第6.1.2節の規定に基づいて委任手続を行う必要がある。

注:1.出願人がハーグ出願時に特許法第18条の規定に合致する特許代理機構に委任していたとしても、国内手続において改めて委任手続を行う必要がある。2.委任状の形式については、現時点では、包括委任状の番号を記入する場所がないため、当面は個別委任状のみを提出することとする。

    復審及び無効宣告請求の審査手続において、意匠の国際出願について、中国メインランドに住所を持たない当事者への書類送達に関わる場合、郵送、ファックス、電子メール、公告などの送達方式を採用することができる。公告を採用して送達する場合、公告日から1ヶ月が経過した場合、既に送達されたものと見なす。

注:『ハーグのユーザーマニュアル』によると、国家知識産権局が国際事務局に保護認容声明を直接出すと、書類を送達するところか、中国大陸部に住所を持たない特許権者と連絡を取ることすらできない可能性があるので、今回の補正において、外国主体について、通常の特許とは異なる、より多様で実行可能な送達方式を規定することを明確にする。

    上記より、今回の『特許審査指南改正草案』は、意匠の国際出願の事務処理及び審査手続について初めて具体的に規定し、ハーグシステムの要求を満たすために、多くのディテール及び手続きが現行の意匠出願の審査手続と異なっている。我々は『特許審査指南改正草案』についての補正の後の進展を継続的に追跡し、中国国内及び国外のイノベーション主体と関連情報を随時共有する。国家知識産権局の公告によると、関係機関及び各界の関係者は20221215までに、再意見募集の内容の改正・完備について具体的な意見を提出することができる。ご質問や具体的なご意見がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

著者紹介:

許峰氏は2006年に華中科技大学の熱エネルギーと動力工学専攻を卒業し、工学学士の学位を取得し、2008年に華中科学技術大学の動力机械と工学専攻を卒業し、工学修士の学位を取得し、2008~2015年に国家知識産権局特許審査協力センターで特許審査官を務めていた。許峰氏は2017年から北京パナウェル特許事務所に加入し、主に機械分野の特許出願書類の作成、審査意見通知書への回答などの中間手続、拒絶復審、特許無効、特許侵害分析、特許有効性分析、検索やコンサルティングなどを担当している。

 

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