商標弁理士 常 雅慧

 

 

   生産経営において、企業が保有する革新的な技術は、他の企業との差別化を図る核となる競争力である。この革新的な技術に対する中国を含む世界各国法による保護は、主に専利と商業秘密の形式であり、それぞれ「専利法」と「商業秘密保護法」又は「不正競争法防止法」に対応している。

 

   専利は、国の専門機関によって公表、審査、権利付与され、独占的な財産権である。中国の法律の規制によれば、専利の保護対象には、特許、実用新案、意匠が含まれる。特許とは、製品、方法に対して提案される新規な技術方案を指し、実用新案とは、製品の形状、構造、又はその組み合わせに対して提案される実用的効果を有する技術方案を指し、意匠とは、製品の外観に対する審美性と産業応用性を両立させる新規なデザインを指す。

 

   商業秘密には、営業秘密及び技術秘密が含まれる(本文の議論は、英語でknow-howとも呼ばれる技術秘密に焦点を当てて説明する)。技術に関する構造、原料、レシピ、サンプル、スタイル、植物の新品種繁殖材料、プロセス、方法又はそのステップ、アルゴリズム、データ、コンピュータプログラム及び関連文書などの情報が含まれる技術秘密は、権利者が対応する秘密保持措置を講じることにより、公知されておらず、商業的価値を有する。

 

   専利は公開性を有する。専利保護を求めるためには、出願人が専利出願を提出し、その保護すべき技術情報を開示しなければならない。専利出願が予備審査を通り、専門機関によって公表された後、誰でもその専利出願の請求項、明細書及び図面を照会し、その技術内容を理解することができる。

 

   技術秘密は秘密性を有する。技術情報は技術秘密として認められるには、その技術情報が公のルートから入手できない機密状態を維持する秘密保持措置を権利者が講じていることが最も重要である。

 

   専利は、専有性を有する。権利者は、一定の時間及び空間の範囲内で自己の専利技術に対する専有権又は独占権を有する。他の者は、権利者の出願前に既に使用し、且つ同一範囲内で使用し続ける場合を除き、同一又は類似の技術について専利出願を提出することも、又は権利者の許可がない場合に権利者の保護された技術を実施することもできない。

 

   技術秘密は非専有性を有する。技術秘密について、同一の技術情報は、合法的な方法で他の者が入手することもでき、例えば、自己開発、又はリバースエンジニアリングにより市販或いは他の合法的な手段で入手された権利者の製品に対して解剖学的分析を行い、その製品に含まれる技術情報を推知することができる。他の者が、権利者から窃盗や脅威利誘などの不正手段でその技術情報を入手するのではなく、上記のように、権利者と同一又は類似の技術情報を自ら入手することは、権利者の商業秘密に対する侵害を認めることなく、その他の者は、権利者と共にその同一又は類似の技術情報を使用することができる。

 

   上記の差別化特性から、専利保護と商業秘密保護との違いは次のようである。

 

   一、保護範囲が異なる

 

   専利権を付与できる技術情報は、特許及び実用新案が新規性、進歩性、実用性を具備すべくこと、意匠が従来意匠から区別され、且つ従来意匠又は従来意匠の特徴の組み合わせから明確に区別されること、及び法規制によって定められた専利権を付与できない対象に属しないことなど、法的に明確な要求を満たさなければならない。専利保護は、権利者が独自に作成した、従来技術及び設計から著しく異なる技術によってのみ可能となる。また、権利者が生産経営において設計、作成し、商業的価値を有し、且つ秘密保持措置を講じた全ての技術情報は、商業秘密に属することができる。

 

   商業秘密は、保護された技術情報が実用性、経済的価値を有する以外、新規性と進歩性を要求するものではない。即ち、全ての技術情報は、進歩性がないことで専利出願を提出することができない場合であっても、商業秘密として保護することができる。

 

   二、保護を求める手段が異なる

 

   専利保護を求めるためには、専利主管機構によって出願、審査され、権利付与される必要がある。中国では6ヶ月から3年以上に及ぶ。一方、商業秘密保護は、出願や審査を受ける必要がなく、一度作成、設計すれば保護することができる。

 

   三、保護期間が異なる

 

   専利の保護期間について、各国の法規制が異なる。中国では、専利権が付与された後、特許の保護期間は20年、実用新案の保護期間は10年、意匠の保護期間は15年であるが、権利者は、その専利保護を維持するために、毎年、年費を納入する必要がある。そうでなければ、専利権は終了となる。その他、専利の特徴とする地域性により、専利は中国の範囲でのみ保護を求められる。権利者は、他の国や地域でも同じように専利権を取得しなければ、対応する地域での保護を求めることができない。

 

   一方、技術情報は、常に秘密保持状態にある限り、始終商業秘密として保護することができ、そして権利者は、特定の地域の侵害者がその商業秘密を侵害したと主張するには、その地域でもっぱら権利を取得する必要はない。

 

   四、権利行使時の立証責任が異なる

 

   専利権の侵害が発生した場合、専利権者は専利主管機構から付与された専利証書に、専利年金納付証明、積極的な専利検索や評価報告を付け加えれば、専利権の存在と有効を証明して保護救済を求めることができる。一方、商業秘密については、関連技術情報が、独自に設計、作成し、正当に所有し、機密状態にあることを証明するための権利者の立証責任は専利権者よりも遥かに重い。実践において権利者は、主張した技術情報が商業秘密であること及びその保護範囲を確認するための鑑定報告書を提出するよう要求される場合が多い。

 

   五、犯罪認定要件と刑事責任が異なる

 

   まず、「中華人民共和国刑法」により罰されるのは、専利の偽造及び商業秘密の侵害に関する重大な情状がある行為、及び境外へ商業秘密を窃盗、暗探、買付、不正に提供する行為が主である。

 

   中国では、偽造専利罪とは、不正経営額が20万元以上、又は違法所得額が10万元以上であり、専利権者に直接的な経済損失を五十万元以上与える場合、又は他の者の専利を二つ以上偽造することによる不正経営額が十万元以上又は違法な所得額が五万元以上の場合等、重大な情状がある行為を指す。「中華人民共和国刑法」に基づき、刑事責任として、3年以下の有期懲役又は拘留が課され、罰金を併科又は単科される。組織犯罪である場合、直接責任を持つ係員や他の直接責任者に対する処罰に加え、組織に対する罰金も課される。

 

   一方、商業秘密侵害罪とは、商業秘密の権利者に与えた損失金額、又は商業秘密侵害による所得金額が三十万元以上であったり、商業秘密の権利者を重大な経営困難によって直接倒産又は廃業に追い込んだりした重大な情状がある行為を指し、刑事責任として3年以下の有期懲役が課され、罰金を併科又は単科される。そして商業秘密の権利者に与えた損失金額、又は商業秘密侵害による所得金額が二百五十万元以上となる特に重大な結果を生じたと認定される場合は、法規制によって最大10年以下の有期懲役が課され、罰金を併科される。組織犯罪である場合、直接責任を持つ係員や他の直接責任者に対する処罰に加え、組織に対する罰金も課される。

 

   専利と商業秘密は、それぞれの特徴及び傾向を有し、商業秘密は、より広範囲で保護される一方、専利は、明確な権利の形を有する。実践において、権利者は、まず開示されると権利者の製品の競争力、経済的利益に損失を与える可能性があり、且つ他の者が模倣又はリバースエンジニアリングにより導出しにくく、ライフサイクルが長い重要な技術について、商業秘密として厳重な秘密保持措置を施して保管、隔離すべき、そのような技術秘密にアクセスできる従業員、企業の協力者に対し、契約締結の際に機密性に関連する契約又は条項を追加し、重要な技術者の離職に関して一定の制限を加えることにより、技術秘密の漏洩を防止すべきである。次に、権利者は、一定の突破性を有する技術について専利出願を提出することで、先行権利の強みと専利の利点を発揮することができる。権利者は、権利付与後、自分の専利技術を独自に使用したり、他の者に使用許可を与えたりすることにより、経済的利益や競争的優位性を獲得できる。

 

 

著者プロフィール

 常雅慧氏は2020年西南政法大学知的財産権法律学科を卒業し、法学学士号を取得した。2022年ボストン大学を卒業し、法学修士号を取得した。2014年に当社に入社し、主に商標登録、知的財産権訴訟、税関登録登記及び届出、オンライン権利侵害クレーム、権利侵害調査などの業務に従事している。

 

 

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