弁護士・弁理士 許峰

 

    実用新案専利は、中国に存在する3つの専利タイプの1つであり、発明専利、意匠専利とともに、広範なイノベーションエンティティにイノベーション成果を保護するための効果的なルートを提供している。出願者が実用新案専利の保護対象の境界を正確に理解するように導き、実用新案専利出願書類の作成及び中間処理の質を向上させるように促進するために、中国国家知識産権局は、2023年11月3日、「実用新案専利の保護対象判断ガイダンス」(以下「ガイダンス」と略す)を公布した。

 

    中国の実用新案には迅速な権利付与、経済的な出願手数料、低い特許性要件という利点があるということを考慮すると、特に製品ライフサイクルが短く、段階的な革新が主な焦点である分野では、その専利価値は実体審査が必要な発明の専利価値と比べて著しく低いものではなく、競合他社や模倣品と迅速に戦うための強力な武器となるのに、米国と欧州の出願者や専門家は、中国の実用新案専利の保護対象又は保護テーマにあまり精通していない。そのため、本文では、中国の実用新案専利制度を実用新案専利出願書類の作成、審査、無効、運用という4つの面から紹介し、「ガイダンス」で提起された具体的な内容を解釈し、欧米のイノベーションエンティティへの実践的なアドバイスを提供する。

 

    出願書類の作成の面で、実用新案専利の場合、まず保護を意図するテーマが専利法第2条第3項の規定、即ち製品の形状及び/又は構造、自然法則を利用した技術案という基本的要件に適合しているかどうかを判断する必要がある。一般的には、明確な空間形状を有する有形製品は、上記の基本的要件を満たすことができる。難点は、ハードウェアの改良と、ソフトウェア、アルゴリズム又は人工知能の両方を含むインテリジェントハードウェア製品にある。この点について、「ガイダンス」では、従来技術の改良がハードウェア部分にあり、且つその改良に係るコンピュータプログラムが既知である場合には、実用新案専利の保護対象に属すると考えられると指摘される。同時に、「ガイダンス」では、有線接続又は無線接続を採用する回路構造も線路構造とみなし、保護対象の要件を満たすことも明確にしている。

 

    審査の面で、中国の実用新案は方式審査に合格するだけで専利権が付与される。方式審査の段階では、審査官は通常、明らかな新規性の欠如を含むがこれに限定されない、明らかな実質的な欠陥のみを指摘する。一方、方式審査の段階では通常、出願の進歩性は審査されず、その後の専利無効審判の段階で審査される。そのため、通常、実用新案の方式審査は6~8ヵ月以内に完了することができる。出願に明らかな欠陥がある場合にのみ、審査官は審査意見通知書を発行する。それにもかかわらず、実用新案の平均出願期間は通常1年未満である。「ガイダンス」では、方式審査の段階では、保護対象に関する意見が寄せられた場合には、理由を明示したり補正したりすることで意見を克服することも考えられるとも指摘される。

 

    専利無効審判の面で、中国国家知識産権局は、実用新案専利の進歩性を評価するために結合できる先行技術文献の数に比較的厳しい制限を設けているため、たとえ発明の高度が比較的低くても、実用新案専利の全部の請求項が無効になる割合は発明専利とほぼ同様である。当事務所では、実用新案専利の無効審判事件も多数取り扱った。私たちの経験によれば、保護対象の問題で無効された実用新案専利の割合は低い。更に、保護対象の問題が無効理由として成立するかどうかの鍵は、技術案の発明点にあると感じている。技術案の発明点が製品の形状と構造である場合、その技術案に既知の方法、操作手順又は材料が含まれが、その既知の方法、操作手順又は材料は製品のハードウェア又は形態の更なる説明のみとみなされると、実用新案の保護対象要件を満たすと考えられる。技術案の発明点に、方法(ソフトウェアアルゴリズム、プロセスフロー等)又は材料が含まれている場合、実用新案の保護対象要件を満たしていないと考えられる。

 

    権利行使の面で、当所では欧米の依頼人のパテントクリアランス調査(Patent clearance assessment or FTO)を支援する場合に数多くの実用新案専利に遭遇するほかに、実用新案専利を活用して電子商取引プラットフォームで模倣品に対する侵害のクレーム処理をするケースが多い。他人の実用新案専利に対して侵害リスク評価を実施する場合でも、自身の実用新案専利権を行使する場合でも、「ガイダンス」に基づき、関係実用新案専利が保護対象の要件を満たしているかどうかについて、迅速に初歩的な分析を実施し、その専利の安定性を判断できる。それにより、より的を絞った分析と権利行使戦略を策定すると同時に、これらの「不適合の」実用新案専利を必要に応じて無効にすることでリスクを回避または排除できる。

 

著者プロフィール:

    許峰氏は2006年に華中科技大学の熱エネルギーと動力工学専攻を卒業し、工学学士の学位を取得し、2008年に華中科学技術大学の動力机械と工学専攻を卒業し、工学修士の学位を取得し、2008~2015年に国家知識産権局特許審査協力センターで特許審査官を務めていた。許峰氏は2017年から当所に加入し、主に機械分野の特許出願書類の作成、審査意見通知書への回答などの中間手続、拒絶復審、特許無効、特許侵害分析、特許有効性分析、検索やコンサルティングなどを担当している。

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