新規性は専利法に規定された専利権付与の必須要件の一つである。

 

    2021年の「中華人民共和国専利法」第22条によると、新規性の判断には以下の要件を満たす必要がある。1)出願日以前に同一の発明又は実用新案が国内外に公開されていない。上記公開には、出版物での発表、使用による公開及び他の公開方法などが含まれる。2)同一の発明又は実用新案について、他人により出願日以前に中国知的財産権局に出願されかつ出願日後に公開された専利出願書類に記載されていない。

 

    2021年に公布された審査指南(以下、「旧審査指南」)によると、出版物とは、技術や設計内容が記載されている独立して存在する伝播メディアを指し、且つその公開発表又は出版の時期が明示されているか、又は他の証拠により証明されているべきである。

 

    2023年施行の審査指南改正案(以下、「新審査指南」)では、上記意味に合致する出版物を更に紙媒体出版物、視聴覚資料及びインターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料という3つのカテゴリーに分類している。また、新審査指南の第2部第3章第2.1.2.1節に、インターネット又は他のオンラインデータベースに関する紹介の節が追加されている。

 

    2021年の審査指南では、インターネットのデジタルデータを専利文献と非専利文献の情報源と検索ルートの一つとして取り扱っているが、実際には、インターネット証拠、特にウェブページ証拠は、出版物の特例又は補足とみなされている。しかし、5G及び関連設備の成熟に伴い、クラウドストレージ、クラウドサービスがより成熟且つ普遍的となることにより、データの送信及びダウンロードもより普遍的且つ便利になっている。そのため、インターネットの使用は、効率性、流通性、引取性の高いという利点を示しており、第三者情報プラットフォーム及びユーザーの情報発信方式、レベル、速度及び情報自体の安定性に大きく影響し、従来技術の検索及び新規性の審査に新たな課題と挑戦をもたらした。インターネット技術の急速な更新に伴い、新たな伝播方法及びその速度は、引用文献の検索と使用に影響を与える。

 

    専利審査要件によると、従来技術の引用文献としては、正確、明確且つ客観的であるべきことが要求され、特に、引用文献の公開発表又は出版された時期の証明が要求される。インターネット公開は、書面公開の出版物よりも普及性と便利性の面で優れているが、内容の不安定性と時期の不確実性の問題もあり、且つ高度に自由化された情報公開方式は、従来技術の判断と検索に大きな挑戦をもたらし、その内容の改ざん、削除、及び情報源照会と発表日確定の難さ等の問題は避けられず、最終的には引用文献の入手可能性に影響を与え、専利審査業務に不確実性と障害をもたらす。

 

    以下、新審査指南を参照しながら、出版物、視聴覚資料及びインターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料についてそれぞれ紹介する。

 

    1) 出版物と視聴覚資料について

    紙媒体出版物とは、通常、印刷、印字された各種の紙媒体指し、例えば紙媒体の専利文献、科学技術雑誌、科学技術書籍、学術論文、専門文献、教科書、技術マニュアル、正式に公表した会議議事録又は技術報告書、新聞、製品サンプル、製品カタログ、広告パンフレット等を含む。

    視聴覚資料とは、電気、光、磁気、写真等の方法によって作成された資料を含み、例えばマイクロフィルム、フィルム、ネガフィルム、ビデオテープ、磁気テープ、レコード、コンパクトディスク等である。

    紙媒体出版物と視聴覚資料は、地理的位置、言語又は入手方法に制限されず、年代にも制限されない。紙媒体出版物と視聴覚資料が入手できるかどうかは、出版発行量の多寡、誰かが読んだかどうか、出願人が知っているかどうかとは無関係である。

    しかし、「内部資料」「内部発行」等の文字が印刷された紙媒体出版物と視聴覚資料は、確かに特定の範囲内で発行され、秘密保持が要求されるものであり、公開出版物に属しない。

    その公開日を証明する他の証拠がない限り、紙媒体出版物の印刷日及び視聴覚資料の出版日は、公開日とみなされる。

    旧審査指南と比較すると、新審査指南では、出版物と視聴覚資料に関する規定に僅かだけの改正が加えられており、紙媒体出版物と視聴覚資料の「入手できるかどうか」は出版発行量の多寡、誰かが読んだかどうか、出願人が知っているかどうかとは無関係であることと、且つ紙媒体出版物の印刷日と視聴覚資料の「出版日」が公開日とみなされることのみが強調されている。これらの改正は、以前及び現在の審査実務で把握されている規定の更なる明確と再記述である。

 

    2)インターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料

    インターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料とは、データの形式で保存され、インターネットを通じて伝播されるテキスト、ピクチャ、音声及びビデオ等の資料を指す。インターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料は、合法的なルートを通じて入手できるものを指し、資料の入手は、パスワード又は支払いが必要であるかどうか、誰かが読んだかどうかとは無関係である。

    インターネット又は他のオンラインデータベースに存在する資料の公開日の確定方法について、新審査指南では、その公開日を証明する他の証拠がない限り、通常、発表日を基準とすると規定されている。現在、インターネットで出版される書籍、雑誌、学位論文等の出版物の増加を鑑み、新審査指南では、ウェブページに記載のオンライン発表日をその公開とすると規定されている。しかし、上記出版物と同じ内容の紙媒体出版物が同時に存在する場合、紙媒体出版物の印刷日によって公開日を確定してもよく、通常、確定可能な最も早い公開日を基準とする。ウェブページ上の発表日が不明確であるか、又は発表日に疑いのある資料について、新審査指南では、公開日を確定するには、ログファイルに記載の発表日と更新日、検索エンジンによるインデックス日付、インターネットアーカイブサービスが示す日付、タイムスタンプ情報又はミラーサイトで表示される複製情報の発表日等を参考してもよいと規定されている。

 

    実務において、一般的なインターネット資料の公開には、次のカテゴリーが含まれる。

    1) 電子商取引:電子商取引ウェブサイトは、製品情報発表と販売のプラットフォームであり、製品の外観表示、製品の機能及び性能、特性の紹介を提供するだけでなく、取引完了後、購入者による商品評価又は写真付きの商品レビューを発表する機能も提供する。これらの電子商取引ウェブサイトで販売された製品の情報及び商品レビューを公開することで、公衆が知りたければ、関連製品を知ることができる状態になっている。しかし、このようなウェブサイトはインタラクティブ性が高いため、サイトで表示される製品情報は販売者自身によって編集、アップロード、又は削除される可能性がある。このようなインターネット証拠について、公開内容と公開時期との対応関係を証明することが困難である。このような場合、従来技術として使用できるかどうかを確認するには、サイトの信頼性、サイトの権限管理メカニズム、サイトの監査及びログレコードメカニズム、ウェブページのタイムスタンプ及びウェブページで日付を反映できる内容等の多方面に基づいて考慮する必要がある。ウェブページの表示する時期がサーバーにより自動生成した発表時期であり、且つ一度生成された評価内容や商品レビュー写真は再び編集できないと確認された場合、関連情報が発表時期から公知であると認定することができる。

    2) メディア報道:インターネットを通じて報道を発表することで、公衆が知りたければ報道内容を知ることができる状態になっている。ニュースの適時性及びニュースメディアの公信力を考慮すると、通常、ニュースページ又はニュースウェブクライアントで表示される時期が公開日とみなされることができる。また、公開した製品が複数の報道機関及び/又はインターネットメディアにより報道される場合、それらが報道した情報によって相互に裏付けることができる。

    3) 標準化機構のサイトでの公開:現在、公衆に問い合わせ又はダウンロードを供するために、多くの国際及び国内標準化機構が、そのサイトを通じて社会公衆に、標準に関連する技術文書、技術規範、技術報告書、会議提案書等を公開しており、そのため、上記技術文書は、一度アップロードされると、公衆が知りたければ知ることができる状態となっている。通常、このような標準化機構のウェブページに記載の文書名に対応する時期は、その文書が公式サイトの公開サーバーにアップロードされる際にシステムが自動生成する時期であり、この時期が文書の公開日となる。

    4) 書籍と雑誌文献のデータベース:現在、多くの書籍と雑誌文献のデータベースは、従来の出版方法で出版される出版物を記録しているとともに、これらをデジタル方式で電子出版も行っている。このような電子出版は通常、高い公信力と知名度を持っており、インターネットでの発表時期をその発表内容の公開日とすることができる。

    5) ソーシャルプラットフォーム:一般的に、公式アカウント、モーメンツ、共有コミュニケーションスペースが含まれる。ソーシャルプラットフォームは、個人又はオンラインコミュニティサービスグループを中心としたサービスを提供する。ソーシャルプラットフォームのユーザーの設定ルールによると、その公開範囲には、全員に公開、特定メンバーに公開及び非公開が含まれる。このようなソーシャルプラットフォームで公開される情報については、その発表日の確定は一概に論じられず、具体的な分析と判断が必要となる。公開範囲が一度設定されると変更できないとすれば、不特定のサードパーティアカウントによりソーシャルプラットフォームにログインし、関連内容の閲覧、取得ができる場合、通常、最初に設定された公開範囲が全員に公開であることを意味し、関連内容は公衆が知りたければ知ることができる状態にある。ソーシャルプラットフォームのユーザー設定ルールによってユーザーが自由に公開権限を設定することができ、且つこの権限の設定と変更がウェブページ又はサーバーに記録を残さない場合、通常、公開内容は公衆が知りたければ知ることができる状態にあると直接認定することができない。

    6) 企業/機構又は個人のサイト:通常、多くの企業は自社のサイトで製品情報を発表し、製品を展示、宣伝する。しかし、このようなサイトは企業自体によって管理、制御されているため、実際の発表時期はサイトで表示される時期と一致しない可能性がある。したがって、製品の発表時期を認定するには、他の補助的な証拠と組み合わせて認定する必要がある。

 

    要するに、ネットワーク技術とコンピュータ技術の発展に伴い、インターネットは人々の情報発表、検索と入手の重要なルートとなっているが、ネットワーク情報は削除又は変更しやすいため、出版物としてのネットワーク情報発表の内容及び公開日をどのように認定するかは常に挑戦的な課題である。新審査指南では、専利出願の審査を促進するために、この点についていくつかのガイダンスと規範が提供される。「最高人民法院知的財産事件年次報告(2015年)要旨」におけるデジタル証拠の真実性と証明力に関する審査判断によれば、公証書の形式で固定されたウェブサイトのウェブページ発表時期の真実性と証明力を審査・判断する場合、公証書の作成プロセス、ウェブページ及びその発表時期の形成プロセスを考慮し、当該ウェブページを管理するサイトの資格と信用状況、運営管理状況、採用する技術的手段等の関連要素を考慮し、案件の他の証拠と組み合わせて総合的に判断するべきである。新審査指南第4部第8章第5.1節では、「公衆がネットワーク情報を閲覧できる最も早い時期は、当該ネットワーク情報の公開時期であり、一般的にはネットワーク情報の発表時期を基準とする」と規定されており、第2部第3章では、インターネット又は他のオンラインデータベースの紹介が追加されたが、さまざまな状況での実際の紛争に直面した場合、最も重要なことは、サイト又はネットワークプラットフォームの管理メカニズムを入り口とし、公衆の関連ネットワーク情報の入手方法、ネットワーク情報の内容と時期との対応性、ネットワーク情報発表主体の身元及び意図、サイト又はネットワークプラットフォームの性質及び管理メカニズムの動的な調整等に注目し、具体的な事件なら具体的な分析を行い、最高人民法院が「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する解釈の第108条に規定されている立証責任を負う側が「立証されるべき事実の存在に高い可能性がある」ことを証明する必要があるという程度に達しているかどうかを確認することである。

 

 

 

 

 

 

著者紹介:

    王勇。1991年に上海華東師範大学のコンピューターサイエンス学部を卒業し、1994年に中国科学院計算技術研究所で修士号を取得し、2005年に中国人民大学で法学の修士号を取得した。1994年から2006年まで中国特許代理(香港)有限公司で弁理士として勤務し、2007年に、北京泛華偉業知識産権代理有限公司にシニアパートナーとして入社した。事業分野は、主にコンピュータハードウェア、コンピュータソフトウェア、通信技術、半導体デバイス及び製造工程、オートマチックコントロール、家電製品等の分野に関する。長年にわたり、知的財産保護に関するコンサルティング、代理業務に従事し、国内外の出願人からの数千件の専利出願を代理し、専利出願書類の作成、審査意見への応答、専利出願の復審、専利無効審判、専利行政訴訟、侵害訴訟、集積回路レイアウトの保護及びコンピュータソフトウェアの保護等の面で豊富な経験を持っている。経験豊富な弁護士・弁理士として、世界中の有名な多国籍企業が関わる数十件の専利案件で指導者と主任弁護士として、訴訟に参加した。

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